昨夜は今朝の講義に向けて小テストの採点をしていたのだが、学生たちの答案の中でどうしてもひっかかる言葉使いがあるんですね。
「理学療法研究論」というクラスで、研究の仕方とかを教えているんですが、その中で統計の話が出てきます。まだ学期が始まったばかりなので、先日は「物差し」の話をしました。統計学的には物差しの種類は三つあり、それらは「名義尺度」「順序尺度」「間隔尺度」と言います。
簡単に言えば、名義尺度は人の名前(名義)みたいなもので(そのまんまやね)、物事をラベリングしたり分類するために使います。たとえば入試の主催者が受験生の受験番号を申込順ではなくランダムに発行する場合などは、その番号の大小に特に意味はないですね。番号は主催者が入試を管理するための単なる整理番号です。「性別」なんかも名義尺度です。もちろん「男」「女」という属性の意味するところを追求していけば、いろいろと語れることはあるわけだけど、ある集団の中にいる男と女を機械的にXYなのかXXなのかで分けるだけでは、男女間に「大小」やら「前後」やら「優劣」やらといった関係があるのかどうかは分からない。
順序尺度は順序・順位を表す尺度ですが(これもそのまんまやね)、一等と二等の差がどれだけあるのかを語るものではない。「一等」「二等」という言葉が出てきたのでこれを使うと、兵隊さんの職階は順序尺度です。一等兵と二等兵。この間にどれだけの権威の差や能力差や俸給差があるのかは分からないけど、一等兵は二等兵よりも位が上というのは分かる。。。理学療法士が日常行う筋力検査「MMT」も順序尺度の代表例ですね。MMTで「2」の筋力と「3」のそれとを比較すると「3」の方が筋力はあるわけですが、「2」と「3」と「3」と「4」の筋力差が同じかと言うとそうではない。数字の上では差分は同じ「1」だけど、その大きさが同じかどうかは分からない。単位「ニュートン」で測るとかなり違うだろう。
間隔尺度は我々が日常、物の長さを測るために使う、あの目盛りのついた「定規」に代表される尺度で、目盛りの間隔が等しい(等間隔の)尺度です。距離を「メートル」で表すと、1mと2mの間の1mも、100mと101mの間にある1mも同じ1mとなります。「秒」や「分」で表す場合の時間も間隔尺度ですね。
で、ここまでがそれぞれの尺度の定義・解説で、学生さんたちもここまでは良く理解しているのですが(実は理解していなかったりもするのだがここでは不問にする)、その尺度(とりわけ順序尺度と間隔尺度)が示す数値の解釈となるとかなり怪しくなってきます。
学生の解答でよくあるのが、『順序尺度が示す数値の大小または数値そのものには「意味がない」が、間隔尺度のそれには「意味がある」』という解説。。。
うーん、順序尺度における数字の大小には意味あるでしょ。一等と二等はその数字によって序列を意味しているわけだし、MMTの2と3では筋力の大きさは随分と違うでしょ。兵隊さんや患者さんにとって、この違いは大きな意味あるんじゃないの?
学生は言うかもしれない。
「いや、そういう意味ではなくって・・・」
じゃ、どういう意味なん? 「意味」って、どういう意味???
たとえば身長は間隔尺度で測れるが、身長170.1 cmと170.2 cmの差0.1cmに何か意味あるの? 多くの場合、MMTの2と3の差の方が意味あるよ。
おそらく他の誰かが書いた本やらヤフーやグーグルで上位表示されるネットの記事やらを鵜呑みにして書いているのだろうけど、自分が使う言葉についてはその意味をよく考えた(定義・解説した)上で使うようにしましょうよ。。。
こんにちは。
返信削除いきなり、違う切り口なのですが、先日ちょっと気まぐれで顔を出したある大学の講演会とシンポジウムで、大学教育で教育者が卒業生に求めるものものとして「自分の言葉で語れる」がありました。
しごく納得です。
習ったままでも、読んだままでもなく、考え、頭の中で醸造し「自分の言葉で語る」。これがリベラルアーツ(教養と読み替えても良い)の目指すところだと。ふむ。