2013年10月18日金曜日

申込みは無かったよ

前回から読む)

坂本センセイの法律講座。昨夜からまた始まりました。「脳科学者の身辺雑記」とか言って、ぜーんぜん脳科学と関係ないじゃーん、って思う人もいるかもしれないんだけど、特にそれについては反論する気はありません。。。もともとそういうブログだからね。

でもですね、法学って実は脳科学のご先祖様である哲学と通ずるところがあると思うんですよ。どちらも実践とか実務とか、身体動かす部分はあるとは思うんだけど、根幹は言葉の連なりによって構成されていて、いろんな言葉の定義の間に矛盾が生じないことを目指してるわけですよね。言葉による世界の調和。

このブログでも「解除って何だ?」とか「合意って何だ?」とか、自分に問いかけ自分が答える作業をしているわけだけど、こういう弁証法って言うんだと思う...って哲学でも使いますよね。。。たぶん

で、僕にとって大事なことは、Aさんが「コレ、1000円で要りません?」ってBさんに聞いて、Bさんが「貰っても良いけど、ソレ、500円だよ」って返した時に、AB間で売り買いの契約が成立したことになるのかどうかってことなんですよね。たとえばの話。

今回の一、二審裁判官の裁きによれば、Aさんの「売る」という意思とBさんの「買う」という意思が合致したので、売買の契約(合意)がAB間で成立したと。。。しかしながら、取引する値段の折り合いがつかなかったので、AさんBさんは裁判で争うことになった、みたいな整理がなされているんですよ。

実際にはお相手さんが「契約を解除します。頂いたお金は返しません」と言ったのに対し、僕が「辞めるのは良いけど、お金払って下さいね」って返したわけですけど。。。

一審の裁判官なんて、僕が「そんな裁きはおかしいんじゃないですか?」って和解の場で言ったら、「あなた、(相手が辞めることを)受け入れたでしょ」なんてこと言って、念押ししてきたんだよね。。。でもね、幾ら念押しされても、「取引価格」も決まってないのに、解除契約(契約を辞めるという契約)が成立するわけないんですよね。僕の常識的感覚に従えば。

それでもって、僕は、そもそも「契約(合意)とは何か」ってこと考え始めたわけなんだけど、調べてみたら契約って「申込」と「承諾」の内容が合致することで成立するんだってことを知りました。「申込」というのは、「コレ、1000円で買って貰えませんか?」みたいなオファーのことで、「承諾」というのは、「ええ、1000円で買いますよ」みたいな、オファーを受ける意思表示のことですね。

そして、これを今回のケースに当てはめて考えると、お相手さんの「契約を解除します。坂本さんの責任です。頂いたお金は返しません」という「申込」と、僕の「辞めるなら、そちらの責任だからお金払って下さいね」という「承諾」の内容が合致したなんて判決が下されているわけなんです。。。

コレ、どうみても合致してないように思うんですけどね。。。

そしてですね。そもそもお相手さんはご自身でも認めるごとく、「契約を解除する」って一方的に解除通告してきたわけで、ご本人に「申込む」なんて意図はさらさらなかったわけですよ。コレ、ちょっと細かい(でも大事な)話になるんですが、「解除」って言うのは、相手が何と言おうが、解除する権利が有りさえすれば解除できる行為で、「単独行為」って言われるものなんです。

たとえば結婚に際し、「僕は君と結婚した」と宣言すれば、相手がどれだけ嫌がろうが婚姻が成立するといった行為です(日本では認められていないと思いますけども...)。

これに対して「申込」という行為は、相手方の「承諾」があって初めて意味を為す(契約に至る)もので、相手方からの承諾があれば契約を成立させる意図を持って行われるものです。結婚にたとえて言えば、「僕と結婚してくれませんか?」っていう問いかけが「申込」になり、相手がOK(承諾)すれば、結婚の契約(婚約)が成立することになります。但し、申込む側は承諾があれば契約を成立させる意図を持たなくちゃいけないわけですから、契約成立の条件としては、プロポーズの時に本当に結婚する意思をその男が持っていなくちゃいけないということになるのでしょうね。。。

で、それはさておき、今回のお相手さんの法廷での言い分によると、上で述べたとおり、お相手さんは単独行為として契約を解除したとしており、「契約を終了しませんか?」なんて「申込」はこちらに対し一切してないんですよね。だから、僕がお相手さんの解除通告に対してどう応えようが、僕とお相手さんの間に解除の契約(合意)が成立することなんてあり得ないわけです。だって、その合意に必要な「申込」がそもそも無かったわけですから。

「申込」と「承諾」の内容合致が怪しいどころか、そもそも「申込」の存在すらないケースに対し「合意(契約)が成立した」と認定した一、二審裁判官らの責任って、なかなか重いんじゃないかと僕は思うんですよね。

なぜ裁判官らがこんな無茶な認定をしたかについては、こうしないことにはお相手さんの支払額が大きく増えてしまうということなんだろうけど、最高裁にはこの認定の是非を、是非ともお聞かせ頂きたいと思ってるんですよね。

もし、「これで良いのだ!」なんてことになったら、「申込」がなくても契約が成立する、なーんて法の基本原則に反する判例を新たに作っちゃうことになるんだもんね。。。

日本の裁判所がどれだけ法を重んじるかが問われているのだと思います。

(次回につづく)

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